雑記置き場

メモがわり

シルヴァーソニック好走を振り返る〜2022天皇賞・春〜

※シルヴァーソニック号、川田騎手ともに大きな怪我は無かったと伺っておりますが、お大事になさってください。

 

 

1:はじめに

天皇賞・春阪神・3200m)は8枠16番タイトルホルダー(横山和)が、菊花賞以来2つ目のG1タイトルを手に入れて幕を閉じた。7馬身差の2着にディープボンド(和田竜)、3着にテーオーロイヤル(菱田)。公式記録では以上のようになっている。
しかし実際には、タイトルホルダーの後ろ1馬身に迫った馬がいた。その馬の名を、シルヴァーソニックという。
本記事では、この幻の2着馬シルヴァーソニック好走の理由に迫りたいと思う。

2-1:理由①斤量

斤量(きんりょう)とは、負担重量のことである。レースでは、出走馬は決められた負担重量(騎手、鞍などの総重量)を背負って出走することが義務付けられている(※注1)。天皇賞・春はG1レースであり定量で行われるため、牡馬であるシルヴァーソニックは58kgの負担重量を背負うことになっていた。
当然の話だが、負担重量が重くて有利になることは無い。今回シルヴァーソニック(馬体重454kg)が背負う58kgをヒト男(体重60kg)で例えると、約7.7kgとなる。これは生後半年程度のヒト赤子や、人参50本分に相当する重量であり、格安飛行機だと手荷物として持ち込めない程度の重量である。誰だってこんな重いものを背負って走りたくはない。ではどうするか。

振り落とせば良いのである。(川田Jに大きなケガが無くて本当に良かった……)
こうして唯一頭、重量負担をすることなくレースに参加する馬が生まれた。

2-2:理由②枠順

2つ目の理由として、今回シルヴァーソニックが引いた8枠17番という枠順が挙げられる。
まず大外8枠なのが良かった。これがもっと内枠だった場合、馬群の前に着けられず、後方のままレースが終わっていた可能性が高い。(他馬への影響を考えたらその方が良かったとは思いますが……)
とは言え、大外枠でも馬群について行けない可能性はあった中で、なぜすんなりとついて行けたのか。

負担重量を落とす手際が良過ぎたのである。
通常、騎手がスタート直後に落馬するパターンとしては、ゲート内で立ち上がったり、出た直後に躓いたり、他馬と接触したりといった例がある。しかしシルヴァーソニックは、なんとゲートを出た直後スタートダッシュで踏み込む勢いで騎手を振り落としているため、ほとんどタイムロスが無かったのだ。
その結果、写真のように振り落とした直後にも関わらず、他馬から大きく遅れることなく追走できたのだ。

2-3:理由③ポジショニング

競馬という競技において、ポジショニングという要素は非常に大きな影響を持つ。どれだけポテンシャルが高い馬でも位置取りを失敗したばかりに大敗したり、逆に実力で一段劣る馬が有利な位置取りを活かして大穴を開けたりするケースもある。

この3枚の写真は、最初の2つのコーナーまでのシルヴァーソニックのポジションを表したものである。少しずつポジションを前に上げているのがわかるだろうか。
ポジションを上げるということは、それだけ脚を使うことになり、3200mの長距離レースということを考えると悪手のようにも見えるが、今年の天皇賞・春というレースにおいてはこれが最善手となるのだ。
まず馬場状態が関係してくる。阪神競馬場は前日から当日の午前中にかけて雨が降り続き、水を含んだ馬場状態であった。午後から日差しが出てきたものの、馬場は稍重までしか回復しなかった。その結果、スピードが出しにくく外差しでは届かない馬場が完成していたのだ。
これでインがもっと傷ついていて使えないようなら話は違ったのだが、まだ内が使える馬場状態だったため、先行有利な馬場は揺るがなかった。
そしてもう1つ、先頭に居たのがタイトルホルダーだったということだ。
2021菊花賞
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2
2022日経賞
(6.9)-12.0-12.6-12.6-12.7-13.4-13.4-12.8-12.3-12.0-11.7-11.2-11.8
2022天皇賞・春
12.7-11.9-11.9-12.0-12.0-11.9-12.2-12.8-13.3-12.9-12.3-12.0-11.9-11.5-11.7-13.2
これはタイトルホルダーが勝ったレースのラップタイムだが、共通した特徴がある。前半それほど緩めずリードを稼いでから、中盤で一度息を入れて後ろを引きつけ(太字の部分)、早めのロングスパートで後ろを千切る勝ち方をしているのだ。この展開を作られると、後ろはまず届かない。後半で仕掛けようにも物理的に距離が遠過ぎるのだ。そのためにも、なるべく前目の位置をキープする必要があったのだ。
これらの要因を序盤で読み切り、積極的にポジショニングを取りに行ったシルヴァーソニックの勝負眼には脱帽せざるを得ない。

2-4:理由④暗黙の了解

暗黙の了解、タブーとされる行為が、競馬にも存在する。「最後方から登りで一気に先頭に出る」などが有名なところではあるが、今回関係してくるのは別のタブーである。
「馬一頭分より狭いスペースに入ってはいけない」
これは単純に、それを許すと危険だからだ。仮にちょうど一頭分空いたスペースにぶつからず入れたとしても、全くブレず真っ直ぐ走ることがほとんどない以上、接触は避けられない。だから騎手の間ではタブーとされている。
ではシルヴァーソニックはどうか。

ガッツリ突っ込んでいる。(危ないからやめようね!)
結果として青タガノディアマンテを外に押し退けて、先行グループの最前列までポジションを上げてしまったのだが、まだこれだけでは終わらない。

巧みに馬群を捌き、ラチすれすれの最内を取ったのである。
ちなみに、シルヴァーソニックが取ったこの位置がどれくらい攻めた位置かと言うと、

普通に内ラチにぶつかっている。(お大事に……)
確かに内ラチすれすれを通った方が距離のロスは当然少ないが、ここまでギリギリを攻める馬は基本的にいない。前のタイトルホルダーも、1馬身外側に離れている。では何故シルヴァーソニックは通れたのか?
答えは簡単、騎手がぶつかる心配をしなくて良いからである。

2-5:理由⑤折り合い

前述の要因により、1着馬と1馬身差の惜敗という結果を残したシルヴァーソニックだが、もう一つ好走の理由がある。それは折り合いがついたことだ。
距離が長くなればなるほど、折り合いが難しくなるリスクは上がる。加えてペースアップ・ペースダウンが何回もあると、輪をかけて掛かりやすい。しかし今回、シルヴァーソニックは見事にレース展開について行ってみせた。なぜここまでスムーズに運べたのか?
折り合いをつける相手をゲートに置いてきたからである。

3:まとめ


結果として人馬共に大きな怪我が無かったから良いものの、レースに与えた影響を鑑みると、決して良い出来事だったとは言えない。
しかし同時に、シルヴァーソニックという馬のポテンシャルの高さも確認することができたのもまた事実である。想定以上に強い馬が一頭いたことと、騎手を落としてゴールしても無効という想定外のルールの存在に目を瞑れば、誇れるレースだったと言えるかもしれない。
幻の2着馬、シルヴァーソニック号の今後に期待したい。

好走を讃えて今回だけ有効ってことにならない?そうすれば3連複回収できるんだけど……。
ダメ?そう……。